【第8回】水にいくら払えますか?
はじめまして。島根大学2回生の平田将達と申します。今回は、身の回りにある「水」をテーマに、「当たり前」について書いてみようと思います。
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2ヶ月ほど前、私は大学で中国人留学生の方とお話しする機会を得ました。日本での生活にも少し慣れてきた頃だったので、生活について聞いてみたところ、予想していなかった答えが返ってきました。
「日本は、水が高いですね!」
…水?水を店で買っているのか?と思った私は、こう返しました。
「水道の水なら安いですよ」
その方は、私の言葉を聞いて、一瞬だけ顔をしかめました。私も少し戸惑いましたが、すぐに会話は再開され、以後その話題は出ませんでした。
何がいけなかったのか?その日の夜、私は考えました。すると、ある事実を見落としていたことに気付きました。
日本に住む私は当然のように水道の水を飲んでいますが、中国では、ほとんどの場所で水道の水は飲めないということです(日本が進んでいて、中国は劣っているという話ではありません。電子決済など、中国の方が進んでいる面もありますから)。
中国の人にとって、水道水は飲めないものであり、それを飲むように言われると、変に思われるということだったのです。また、水(ミネラルウォーター)の価格については、水道水を飲めない中国では安く、水道水を飲める日本では高いと考えられます。
その時は、それ以上考えませんでした。しかし後になって、この時のことを思い出し、ミネラルウォーターについてもう少し考えることになりました。
私は普段、外出するとき、水道水を水筒に入れて持っていきます。しかし、ペットボトル入りのお茶やジュースを買う人は少なくないでしょう。今では、スーパーやコンビニ、自動販売機はもちろん、100円ショップやホームセンターでも買え、持ち歩くのにも便利です。。私がそうしないのは、節約のためです。1本100円前後のペットボトルを毎回買うのと、1L程度ではほとんど0円に等しい水道の水を飲むのでは、1ヶ月・1年単位で考えると、かなりの差になるのです。
ここで、お茶やジュースを飲むというのなら、水を飲まずに違うものを飲むということで解決するのですが、ミネラルウォーターが売られているのを見ると、不思議に思われます。水道の「水」と、ペットボトルの「水」は、そんなにも違うものなのか?…と私は疑問に思いました。
そして、実際にミネラルウォーターを売っている店を巡り、その価格や形態を見てみました。回ったのは、大学がある松江市内の複数のスーパー、コンビニ、ドラッグストア、ホームセンター、100円ショップ、自動販売機です。メジャーなものからマイナーなものまで、さまざまなミネラルウォーターが売られていました。店によっては取材・価格調査が禁止されているのと、メーカー・小売店ごとの価格競争があることから、個々の価格については公表できませんが、興味深いものが見られました。
まず、同じ銘柄のものであっても、500mLや2Lなど、異なる容量のものが売られていることに気が付きました。携帯するのには500mL、家で飲むのには2Lなど、購入者の用途に合った形で売っているものと考えられます。さらに、500mLのものと2Lのものを、ほとんど価格を変えずに販売している店も多く見られました。これは、いかなる容量のものであっても、買う人は買うため、このような価格設定であっても問題ないということではないでしょうか。
そもそも、ミネラルウォーターを飲む人が少ないならば、メーカーや複数参入するとは考えられず、銘柄は少ないはずです。しかし、数多くの銘柄があり、メーカー同士がしのぎを削っている以上、多くの人が店で「水」を買っていることになります。
買う人の中にも、できるだけ安く買いたい人はいると思いますが、そうでない人もいるはずです。「◯◯の水」のように、ミネラルウォーターは既にブランド化しているのです。それぞれが欲しい「水」を、買っているのです。
では、もう少し詳しく、実際にミネラルウォーターを買う必要がある場面について考えてみましょう。
私も、朝から晩までというように、長時間外出するときには、ペットボトルの水かお茶を買います。水筒1本では足りないからです。この時、500mL程度のものを買うことが多いです。それは、あまり大きいものを買うと、持ち歩くのに不便なうえ、消費しきれず、500mL程度が適当であると考えられるからです。
もう一つ。災害がくれば、ライフラインが止まることが考えられます。私も、来たるべき時に備え、ペットボトルの水を備蓄しています。この水は、2Lのものです。Lあたりの単価が最も安いからですね。
現代日本においても、水道水は飲まず、ミネラルウォーターのみを飲むという人も当然ながらいます。
そもそも、現代日本においても、上水道が普及していない地域はまだあります。
こちらは、厚生労働省のホームページです。ここに、上水道の最新の普及率が記されています。(2020年1月20日閲覧)
平成29年度 現在給水人口と水道普及率(平成30年3月31日現在)
富山 93.2%
愛媛 93.2%
大分 91.9%
秋田 91.4%
熊本 87.8%
厚生労働省ホームページより、値の低い5県を抜粋して掲載
このデータによると、全国平均は98.0%(前年度比+0.1%)であり、100%普及しているのは、東京・大阪・沖縄の3都府県のみということになります。これ以外の地域では、独自に地下水などを利用することになりますが、必ずしもそれで信用が得られるわけではありません。天然水が豊富で、清流ならまだしも、そうでないならば、密封・殺菌されたミネラルウォーターを手軽に感じるのは、全く無理のないことです。
さらに、水道水には、殺菌のために塩素が使われるのですが、この塩素を嫌ってか、水道水に信用がおけないという人もいます。その手の言論は、ネット上にも散見されます。
その他さまざまな理由により、現代日本にも、水道水ではなく、ミネラルウォーターを飲む人がいます。その人たちにとってみれば、水道の「水」と、ペットボトルの「水」には、大きな違いがあるということになります。結局は、個人の考え方次第ということですね。
もう一つだけ、考えておきたいことがあります。それは、「上水道は本当に当たり前にあるものだろうか?」ということです。
日本国は
しかし、この状況を当たり前のものと見なすことは、良くないことです。なぜなら、我が国に豊かに水があることは、水害に悩まされることと、表裏一体だからです。
松江市街の西には
水道が普及した後であっても、1972年や2006年には水害が起きており、逆に1994年は渇水に見舞われるなど、水によって我々の暮らしが脅かされることもあります。(ここまで2段落は、『湖都松江』38号を参考にしています)。
ここでは松江を例に挙げましたが、水害は全国で繰り返し起こってきたもので、水道が普及した時代にも、そこまで大きな違いは見られないことから、全国各地で、苦労の果てに水道が整備され、今も維持・管理が続いていると考えられます。
当たり前に水道の水が利用できることに感謝…ということもありますが、それ以上に感じるべきなのは、そこまでして整備した水道も、ある時には維持できなくなる可能性があるということです。
和歌山市、3日前の断水発表で混乱 各方面に影響 - 産経ニュース
和歌山市が19~22日の大規模断水を実施3日前の16日に突然発表したことで、翌17日も混乱が続いた。災害時でないにもかかわらず、スーパーなどでは飲料水を求める買い物客らが殺到し、品不足が発生。臨時休業を余儀なくされる商業施設や、給食を提供できないとして午前中授業のみとする学校も。影響は各方面に波及し、市民からは怒りや困惑の声が相次いだ。…… (産経ニュース 2020年1月17日 2020年1月20日閲覧)
和歌山市、断水取りやめ 最長3日8万人影響と予告 - 産経ニュース
和歌山市は20日、19日夜から3日間予定していた大規模断水を取りやめた。当初は基幹水道管の漏水が原因と想定していたが、漏水現場を掘削した結果、基幹から枝分かれした管の漏水と判明。断水せずに修繕を完了できたとしている。…… (産経ニュース 2020年1月20日 2020年1月20日閲覧)
この記事を書いている時点では、このような混乱が広く報道されています。水道が止まることで大規模な混乱が起こるのを見ると、我々がいかに水道に依存しているのかがよくわかります。先に挙げた上水道整備率は、その依存度の高さを表しているのかもしれません。すでに上水道が整備されてから半世紀ほどが経過しており、今後他の街で、このようなことが起こらないとはいえません。
日頃からミネラルウォーターを飲む人がいれば、水道水を飲む人もいます。それらが当たり前に回っているうちは良いのですが、本当は当たり前ではないのです。
ましてや、水道水を飲むのが当たり前などという言論は、水とのあり方のほんの一面を、真理であるかのように捉えたものなのです。
あの時、「水道の水なら安いですよ」と言ったことが、恥ずかしくなりました。