【第55回】松江の冬を勝手にレビュー! 1989~2020

 10月以来の登場になります。平田将達です。

 今回の記事は、「ムダ知識」を追求した末に生まれたものです。純粋な興味が高じて調べてみたもので、これでも本人は満足しております。読み物のつもりで気楽にお読みください。

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 私が島根大学に入学し、松江の街に引っ越してきたのは、2018年4月のことでした。雪が少ない瀬戸内側から来たということもあり、松江の気候にはなかなか慣れずに、どんなものかと思っていたのですが、やはり気になるのは冬でした。

 周りの方々が、「松江の冬は厳しい」と言うのです。もちろん雪は積もるでしょうから、長靴や上着は準備していたのですが、あれから2度目の冬が過ぎても、雪に悩むことは全くと言っていいほどありませんでした。その一方で、古くから松江に住む人は、雪に気を付けろと何度も言い聞かせるのです。

 このギャップは何なのかと思って、気象庁のホームページで、過去の気象記録を調べてみました。その結果、「暖冬」と「厳冬」の違いに尽きるということがわかりました。私が2018年4月に住み始めてからというもの、2019年と2020年の冬は「暖冬」。それに対して、2018年は、明らかに「厳冬」というべきものです。私が引っ越してきた2018年4月という時期は、「厳冬」を超えた直後にあたる時期でしたので、2018年の厳冬を松江で越した人にとっては、雪のイメージが強く残っていたものと思われます。

 今年2021年は、ラニーニャ現象の発生もあってか、「厳冬」が予想されていました。予想通りの低温・積雪がやってきて、過去2年間とのギャップを見せつけられている最中です。この記事を書いている今(1/11 6:55)も、窓の外を見ると、しんしんと雪が降っているところです。

 

 ところで、これまでの松江の冬の寒さを、定量的な数値で表すことはできるものでしょうか。「寒さ」という主観に対応する尺度は存在しないので、私が勝手に決めた基準に沿って、平成元(1989)年~令和2(2020)年までの松江の冬を、なんとなく「レビュー」してみたいと思います。

 

 その前に、まず松江の冬のステータスを、他の都市と比べてみます。

 ここでは、特定の1年の冬を取り出しても仕方ないので、気象庁で公開されている「平年値」(1981年~2010年)のデータを借用します。本来なら、私が決めた基準を持ち出したいのですが、松江の分を調べるだけで、相当な手間でしたので…。

 

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 これを見ると、瀬戸内側や太平洋側の各都市より積雪が多いことは明らかです。その一方で、中国山地沿いや、北陸・北近畿沿岸の各都市と比べれば、少ないようです。また、同じ日本海沿岸の鳥取と比べても、降雪量が半分未満ということで、この部分からは、はっきりとした差を見出せそうです。

 この点をご理解いただいた上で、1989年から2020年までの松江の冬の寒さを、次の6つの尺度によって、レビューしてみたいと思います。

 

①総降雪量(cm)

 雪が多ければ、厳冬というべきでしょう。こまめに積み上げた積雪なのか、1度にドカッと降った雪なのかは問いません。とにかく、量が多ければ、高く評価します。

②連続積雪日数(日)

 降るだけでは不十分です。1cm以上の積雪が続いた連続日数を、日数単位で評価します。積雪が0cmになった時点で、記録は途切れるものとします。

 観測は、1989年3月31日までは、その日最も深かった時の積雪、1989年4月1日から1999年12月16日までは、9時・15時・21時の1日3回、1999年12月17日からは、毎時0分の1日24回の観測ですので、厳密には均質な比較ではないのですが、データの制約上、そのまま扱います。

③最深積雪(cm)

 言うまでもなく、その冬で最も深かった積雪の比較です。

④最低気温記録(℃)

 その冬で、最も寒かった日の最低気温です。晴れの日に観測することが多いと思われます。

⑤最寒月平均気温(℃)

 最も寒かった月の平均気温です。1月に観測する月と、2月に観測する月があり、実は12月に観測した年があります。

冬日日数(日)

 冬日(最低気温が0℃未満の日)の日数を数えます。

※1年の始まりと終わりは、「寒候年(前の年の8月1日から、その年の7月31日まで)」を採用します。つまり、1989寒候年とは、1988年8月1日から、1989年7月31日のことです。以下、1989寒候年のことを、ここでは「1989年」と呼びます。

 

 以上の6項目のそれぞれについて、32年分を調べました。その中から、3位~1位とワーストの年を、「部門賞」として発表します。また、6項目を総合して、「総合賞」の5位~1位とワーストを、私の独断で発表します。それでは、参りましょう。

 

[① 総降雪量部門]

3位 2006年 127cm

2位 2000年 134cm

1位 2011年 166cm

 

 いずれも、ものすごく大雪の年です。「ドカ雪」有利の項目ですが、いずれも1度のドカ雪でランクインできるほど、甘くはありません。まとまった積雪を何度も重ねることによって、高い順位になるようです。

 続いて、ワーストを見ていきましょう。

 

ワースト3位 2020年 20cm

ワースト2位 1998年 19cm

ワースト1位 2019年  6cm

 

 ………。年間で20cm程度なら、まだ降ったような気にもなるのでしょうが、2019年の「6cm」とは…。やはり、私が松江に来てからの2年間が、どちらもランクインしています。積もったことを記憶してはいます。

 

[② 連続積雪日数部門]

「11日」の年が3年ありました。より詳細に、時間単位で検討すると、

4位 1995年 11日(240~245時間)

3位 2018年 11日(245時間)

2位 2000年 11日(250時間)

1位 2011年 37日(869時間)

 

 …2011年の「37日」が、あまりにも飛びぬけすぎています。2010年12月31日から、2011年2月5日まで、積雪状態が続いていたのでした。いわゆる「根雪」(連続積雪30日以上)なのですが、松江で観測した例はほとんどなく、いかにこの年が寒かったかを物語ります。

 

続いてワーストなのですが、こちらは「3日」の年が、8年あります。

1989年 3日(時間単位の検証不能)

2002年 3日(39時間)

1998年 3日(42~47時間)

2007年   3日(47時間)

2016年   3日(47時間)

2010年 3日(48時間)

1997年 3日(54~65時間)

2019年 3日(56時間)

 

 1999寒候年以前で時間単位の比較ができないのが残念ですが、1989年でないとしたら、2002年を、一応のワーストとみなしたいと思います。2日以内に全て溶けてしまった年はないことがわかりました。

 

[③ 最深積雪部門]

3位 2017年 39cm

2位 2018年 49cm

1位 2011年 56cm

 

 1989年以降の記録を集計したのですが、なぜかトップ3が2010年代で埋め尽くされてしまいました。

 雪国では当たり前のことですが、松江では、40cm~50cmといった積雪はめったにないということです。これが鳥取ならば、頻度がそれなりに上がるのですが、それでも頻繁なことではありません。

 

ワースト3位 2013年  8cm

ワースト2位 2002年  7cm

ワースト1位 2019年  4cm

 

 こちらも、2000年代以降のみがランクインしています。この程度の積雪なら、運動靴でも歩けそうです。

 

[④ 最低気温記録部門]

3位 2004年 -5.4℃

2位 2003年 -5.8℃

1位 2018年 -7.0℃

 

 松江の街は、瀬戸内側と比べると、底冷えは激しくありません。冬の日照時間が短く、晴れることが少ないので、放射冷却による寒さはひどくないのです。よって、-5℃を下回ることは少ないようです。その中で、2018年の-7.0℃が際立ちます。出雲では、さらに低い-8.4℃を観測しました。

 

ワースト3位 2008年 -2.2℃

ワースト2位 1993年 -1.8℃

ワースト1位 2007年 -1.5℃

 

 底冷えが激しくないとはいっても、強めの寒気が入ってくるならば、-2℃くらいは観測されそうなものです。そうならないような、暖冬の年にこそ、-1℃台が最低気温記録になるのでしょう。

 

[⑤ 最寒月平均気温部門]

3位 2008年 3.2℃

2位 2012年 3.1℃

1位 2011年 2.0℃

 

 2011年の2.0℃(1月)が飛びぬけています。2月は5.3℃と、むしろ平年を上回っているので、1月だけが極端に寒かったということです。④で見た通り、2008年は、1年で最も寒かった日の最低気温がワースト3位なのですが、平均気温は3位の低さです。

 なお、「最寒月」は、1月の年と2月の年があるのですが、2006年のみ12月(2005年12月)の観測です。1月が4.1℃、2月が4.7℃でしたが、12月が4.0℃と、12月としては断トツで低い気温でした。12月があまりに寒かったため、12月の記録を超えられなかったのです。

 

ワースト3位タイ 1989年 5.6℃

ワースト3位タイ 2007年 5.6℃

ワースト2位   2019年 5.8℃

ワースト1位   2020年 6.4℃

 

 またしても、2019年と2020年がランクインです。2020年は、1月の平均が7.0℃、2月が6.4℃でした。3月の平年が7.6℃ですので、1月が3月の気候に迫っていたことになります。

 また、昭和から平成に改元した1989年もかなりの暖冬で、1月の平均気温は、88年12月と同じ6.3℃です。平成改元(1月8日)の瞬間には、雪ではなく雨が降っていて、気温は11.2℃と、冬とは思えない気温です。

 

[⑥ 冬日日数部門]

3位タイ 2011年 35日

3位タイ 2018年 35日

1位タイ 1996年 38日

1位タイ 2006年 38日

 

 上位にランクインした年の最低気温を眺めていると、どの時期に冬日が多いかは、年によって性格が異なります。2011年と2018年は、12月の時点で冬日は2~3回しかなかったのに対し、1996年と2006年は、それぞれ6回と8回観測しています1996年は、2月だけで16回、2018年は17回、2011年は1月に15回、3月に10回と、恐ろしい冬日のラッシュが見えてきます。また、1996年は4月4日に冬日、1997年は(96年)12月1日に冬日と、かなり早い・遅い段階での冬日も見当たりました。いつ寒さがやってくるかは、その時次第ということです。

 

ワースト3位 2007年 13日

ワースト2位 2019年  9日

ワースト1位 2020年  5日

 

 またしてもこのメンツです。年内に冬日を観測しない年は、近年増えつつありますが、2020年の場合、12月はおろか1月でさえ、1度も氷点下になりませんでした。記録の「5日」は、全て2月に観測したものです。極端な暖冬であるといえます。

 

 なお、冬日のうち、真冬日(最高気温が0℃未満)を観測したのは、以下の通りです。

1991年2月23日 -1.3℃

2016年1月24日 -0.4℃

2018年2月6日  -0.3℃

2018年2月7日  -0.1℃

 さらに、集計の範囲外ですが、2021年1月8日も真冬日(最高-0.6℃)でした。暖冬のはずの2016年にも観測されているあたり、いつ観測されるかは予測できません。2018年は、2日連続で真冬日となったということで、松江としては想像を絶する寒さです。

 

 …以上で、各部門のトップ3とワースト3を発表し終えました。それぞれ年の記録は、次の通りです。(赤字:トップ 橙字:トップ2,3 水色字:ワースト2,3 青字:ワースト)

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 続いて、グラフで表示します。棒グラフは上にあるほど寒く、折れ線は下にあるほど寒いことを表します。

※連続積雪日数は、2011年の「37日」があまりに飛びぬけすぎているので、2位の「11日」を100%で表示しています。2011年は「336%」となります。

 

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 では、このデータをもとにして、総合順位を、5位から発表します。

 

[5位 1996年]

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[4位 2006年]

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[3位 2000年]

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[2位 2018年]

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[1位 2011年]

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 ここまで、名だたる冬の数々を紹介しました。これらは、みな住む人を苦しめる類のもので、交通への影響も少なからず出たことでしょう。

 逆に、ワーストを選ぶとしたら、この年です。

 

[ワースト 2019年]

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 正直、2020年とどちらを選ぶか悩みました。気温は2020年のほうが高かったのですが、ひと冬のうちに全くといっていいほど雪が降らなかったという点で、2019年が上回っていると判断しました。どちらも規格外の冬です。地球温暖化が進めば、このような年は増えるのでしょうか。

 

 1989年から2020年までの中では、2011年があまりにも強く、無双状態になってしまったのですが、ならば「昭和」の時代に目を向けると、どのような比較になるでしょうか?19世紀以降の200年間あまりには、全体として「地球温暖化」の傾向が見出せるので、さかのぼれば、平成以降では考えられないような寒い年の記録が見つかるはずです。

 …ということで、観測史上最強クラスの厳冬である、次の4度の冬を「召喚」して、今回のトップ3、ワースト2と比較してみます。

 

 1963年…「三八さんぱち豪雪」。異常寒波が日本を襲った年。総合力では観測史上最強。

 1971年…冗談では済まされないレベルのドカ雪に悩まされた年。

 1977年…ひと冬を通じて何度も大雪に見舞われる。2月には異常低温。

 1984年…冬のほとんどの期間に積雪があった。2011年を全体的に強化したイメージ。

 

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 平成以降に限れば、特筆すべき厳冬であった2011年も、これらの冬と比べれば、まだマシに思えてしまいます。松江に長年住んでいる人にとっては、特に1963年(三八豪雪)の記憶が色濃いようで、昔話として体験談を教えてくださいます。

 今後、「異常気象」として、平成や令和の常識では考えられないような冬がやって来ることを考えた場合、これらの事例と比較する必要が出てきそうです。地球温暖化が進んで、夏が暑くなっているぶん、ここまで厳しい冬に襲われることは考えにくいのですが、「ドカ雪」が生じる可能性は、心の片隅に留めておきます。

 

 最後に、ラニーニャ現象によって、寒くなるとされた今年2021年の寒さを、この尺度に当てはめてみます。1月11日時点での暫定記録を、この尺度に当てはめてみようと思います。

 

総降雪量    63cm

連続積雪日数  7日(12/30~1/5)

最深積雪    26cm(12/31)

最低気温記録  -3.9℃(1/7)

最寒月平均気温  6.7℃(12月)

冬日日数    6日

 

 まず、総降雪量ですが、年末と年始の大雪により、稼いできた感があります。1989~2020年平均の61.5cm、中央値の55.5cmを、すでに超えています。どこまで伸びるかは、現時点ではわかりません。

 続いて、連続積雪日数。1月12日現在で積雪状態にあり、7日から続いているので、13日まで雪が残れば年末年始の記録に並び、14日まで残れば更新となります。14日まで残る可能性は低く、また今後8日以上連続で積雪するほどの大雪が来るとは限りません。

 最深積雪の26cmは、ドカ雪のなせる業でした。年始には気温が上がり、追加で雪が降ることはなかったので、長続きはしていません。

 最低気温記録の-3.9℃は、注目に値するものです。数字自体はそこまで珍しくありませんが、実は1月7日の日中に観測しているのです。

 最寒月平均気温は、現時点では12月のデータしかないので、12月の6.7℃を載せるしかありません(12月としては平年並み)。1月1日~11日の平均気温は1.9℃と、かなり低い状態でした。これから上がることでしょうが、どうなるでしょうか。

 冬日日数は5日で、12月31日まで観測がありませんでした。立ち上がりが遅かったぶん、日数は少なめです。

 季節予報を見てみると、これからの気温は、平年並みか高めで推移する予報になっています。これでは、寒気は流れ込みにくいことでしょうが、まったく冷えないとは言い切れません。まだわからない部分が多いので、これからの気象情報を注視しましょう。

 

 32年分の記録に照らせば、これからの寒さがどの程度に位置付けられるべきものなのか、ある程度わかるようになります。それが、この記事を書いたことによる「収穫」です。