【第63回】「にほんごであそぼ」と「オトッペ」の魅力

 こんにちは。就活と卒論に追われている平田将達です。まあ、何かに追われ続けているのは、今に始まったことではありませんが…。

私がこんな記事を書くとは、意外に思われるかもしれませんが、感じた所を述べさせていただきます。前置きが長すぎることについてはご容赦ください。

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 NHKの受信料に異を唱える人が現れるのは、今に始まったことではありません。しかし、年々その論調が過激になってきていると感じます。元NHK職員の立花孝志氏により、「NHKから国民を守る党(現:NHK受信料を支払わない方法を教える党)」が結党され、ネットを中心に「NHKをぶっ壊す!」のスローガンが広まり、受信料への不満が高まっているほか、民放化やスクランブル放送化(契約者のみ視聴できるようにする)の議論を呼び、内閣側の人間から「Eテレ売却論」が提示されるなど、さまざまな人の思惑が渦巻いています。

 実は、「N国党」の目的は「NHK解体」ではないのですが(スクランブル化が目的)、「NHKをぶっ壊す!」のメッセージを「NHK解体」と受け取る人が一定数存在することにより、仮にスクランブル化が実現したとしても、怒りの矛先は収まらないことでしょう。

 私も、NHKのあり方については悩まされる部分はあるのですが、明確な主張をすることはできません。…というのも、数々の論説を目にして感じるのは、圧倒的なNHKへの無関心、リスペクトの欠如であり、自らNHKを視聴して、その価値を認める人の物言いではないということです。少なからず存在する視聴者の側からの意見を欠いて、視聴してもいない人ばかりが勝手な論を口にしているのが現状ではないでしょうか。議論すると言いながら、NHKなど無くて良いと考える人の論ばかりが世の中を席巻し、世論をその方向に傾けているものと、私は見なします。

 さらに、我々若年層にとっては、そもそもテレビ自体が必要とされないようです。(このような論は、たいていネットニュースや週刊誌といった媒体違いの場で展開されます)

 どのような結末を迎えるにせよ、最も重視されるべきは、放送の「質」ではないでしょうか。組織を適正化するにあたって、今の「質」を維持できないという結論になるならまだしも、NHKの持つ文化的・社会的意義に目を向ける者がなく、受信料の負担ばかりを理由として縮小ばかりが論じられる今の風潮については、少なくとも納得がいきません。

 能楽を嗜む立場から言うと、「古典芸能への招待」「FM能楽堂」のような番組は、何としても維持しなければならないと思っています。それらの視聴が少なく、また能楽に触れる人が減っているからといって、廃止してよいものではないはずです。これを許せば、潰したい分野の番組を視聴させないように国民同士で仕向け合うことによって、番組打ち切りに至らしめる余地が生まれます。そして、この論理が成り立つ土壌は、今のところNHKにしかありません。好き勝手なコンテンツを勝手に受け取ることができ、かつ需要の少ないコンテンツを人気コンテンツと抱き合わせて存続させる制度がいまだ整わない点で、インターネットは伝統芸能を支えられる段階にはないのです。また、スポンサーを有する民放においては、全くといっていいほど根付かないようです。

 

 …と、NHKの必要性を訴えてきましたが、実際にはどのような番組が放送されているのでしょうか。今やNHK廃止派の偏った論しか目にしなくなってきたので、私が気に入っている番組(能楽の良さは通じないでしょうから能楽以外で)について書いてみたいと思います。

 私は、Eテレの番組をよく見ます。恥ずかしながら、今もそれらを「卒業」することができません。2021年改編前現在、朝夕に放送されている主な番組を、放送開始が古い順に並べてみると、

 

・「おかあさんといっしょ」(1959年)

・「みんなのうた」(1961年)

・「えいごであそぼ」(1990年。2017年から「えいごであそぼ with Orton」に改題)

・「てれび絵本」(1990年)

・「ニャンちゅう」シリーズ (1992年。2018年からは「ニャンちゅう!宇宙!放送チュー!」)

・「プチプチ・アニメ」(1994年)

・「忍たま乱太郎」(1994年)

・「いないいないばあっ!」(1996年)

・「ざわざわ森のがんこちゃん」(1996年)

・「おじゃる丸」(1998年)

・「ピタゴラスイッチ」(2002年)

・「にほんごであそぼ」(2003年)

・「シャキーン!」(2008年)

・「みいつけた!」(2009年)

・「はなかっぱ」(2010年)

・「ワンワンわんだーらんど」(2010年)

・「デザインあ」(2011年)

・「パッコロリン」(2011年)

・「おとうさんといっしょ」(2013年)

・「キッチン戦隊クックルン」シリーズ (2013年。2015年から「ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン」に改題)

・「ムジカ・ピッコリーノ」(2013年)

・「わしも」(2015年)

・「ミミクリーズ」(2015年)

・「コレナンデ商会」(2016年)

・「オトッペ」(2017年)

・「かいじゅうステップ ワンダバダ」(2018年)

・「あそビーバー」(2019年)

・「もっと!まじめにふまじめ かいけつゾロリ」(2020年)

・「ざわざわえんのがんぺーちゃん」(2021年。「ざわざわ森のがんこちゃん」のスピンオフ)

 

 …というものが挙げられます。古いものほど、なじみのある作品が多いのではないでしょうか?かくいう私も、全て知っているわけではないのですが…。

 この中で、私は、特に「にほんごであそぼ」と「オトッペ」の2本を好んでいます。そして、知育番組としてもふさわしいと考えています。NHKの必要性を訴えるべく、この2本の魅力を紹介してみたいと思います。(ここまで前置き。まさかの2000文字オーバー)

 

にほんごであそぼ

https://www.nhk.jp/p/nihongo/ts/K8MXJPY2MM/ (NHK公式ホームページ)

 「日本語」に親しむことを目的とした番組で、「えいごであそぼ」よりも遅れて放送が始まりました。2003年放送開始ということで、我々世代にとっては、まさにどストライクと言っても過言ではないのではないのでしょうか。放送開始からはや18年。子役は3代目から5代目までが混在しており、長寿番組としての地位を確立しています。

 歌や映像を交えながら日本語に触れることができるのが魅力で、まだ言葉を覚えない小さな子どもが口ずさむ程度のやり方でも、十分目的は果たされているものと思います。もともと「幼児向け番組」に位置付けられていましたが、いつからか正式に「全年齢」向けの番組となりました。(ゆえに、「大きなおともだち」も少なからず観ている)親子のように、世代を超えて観るのに、最もふさわしい番組であると考えます。

 1週(5回)ごとにテーマが決められており、そのテーマに即した内容が展開されます。最近放送されたものですと、「擬音語・擬態語」「鼻濁音」古典落語の「転失起てんしき」、夏目漱石の作品(『坊っちゃん』『吾輩は猫である』『草枕』)を題材としたものがあります。みなすべて、幼児でも親しめるように工夫されて制作されたものです。これらを大人になってから摂取することはなかなか難しいものですが、物心つく前から親しんでいたとしたら、大きな財産になりうるでしょう。

 また、それぞれのコーナーが、視覚や聴覚を最大限動員して、視聴者を画面に見入らせるような構成になっています。例えば、オープニングは、「にほんごであそぼ」を「でにあほそんぼご」のように並び替えて、子役に1音ずつ発音させるのがお約束ですが、これはひらがながもつ1字1音の分解性を視覚と聴覚で表現したものです。発音することによって、「あほ」「そん」のような語の存在を見出すことができそうですが、そこまで気付かずとも、この声が聞こえてくるだけで、幼児なら面白がって見入ってしまうはずです。

 歌や踊りが取り入れられているのも良い試みで、文学作品や民謡がそのまま歌詞になっているものが多くあります。…ということは、これを覚えれば、知らず知らずのうちに、それらの一部を暗唱することになります。謡曲の一節を暗唱することがどれだけ難しいかを考えると、全国の子どもたちが何気なく文学作品を覚えてしまうのは、とんでもないことのように思われます。

 歌自体の完成度も高く、初期には「でんでらりゅうば」(長崎県の民謡)が人気となり、2015年には、「恋そめし」(百人一首や各地の方言を交えたオリジナル曲)が一躍ブームとなりました。特に「恋そめし」を歌った「ちーむ・をとめ座」(森穂乃佳・奥森皐月・中山凜香・田辺まり)は、CDデビューを果たしたほどです。

https://www.sukusuku.com/contents/17230 (NHKエデュケーショナル ホームページ)

 

 百人一首のコーナーも素敵です。これは、詠みあげる声に従って、子役の1人と勝負する形式になっているのですが、私の真剣さが足りないためか、なかなか覚えられません。先日のあもんくんとの回では、惨敗してしまいました…。(あもんくんは3文字目あたりで札を取りました。暗記済みでしょうか?)

 初期の「にほんごであそぼ」を覚えている方もいらっしゃるかもしれませんが、その頃とは内容がやや変わっています。それは、

・コニちゃん(KONISHIKI)がメインを退き、みわサン(美輪明宏)に交代。

狂言のコーナーには、野村萬斎氏に加え、ご子息の野村裕基氏も出演するようになった。

うなりやベベン(国本武春)氏が逝去されたため、新規の出演はなくなったが、再放送映像によって名義上は今も出演し続けている。

 

といった違いです。初期の4:3映像もいまだに再放送されることがあり、特に懐かしく思います。2020年からは、あいだのじいさん(声:中尾隆聖)も出演するようになったので、「アンパンマン」のばいきんまん、「ドラゴンボールZ」のフリーザ様並みのネームバリューになることを期待したいと思います。

 この番組がいつまで続くかはわかりませんが、日本人の教養の土台を支える番組として、長く愛されることを望みます。

 

オトッペ

https://www.nhk.jp/p/ts/6X8L7Z8VK8/ (NHK公式ホームページ)

https://www.youtube.com/c/オトッペ町役場公式チャンネル/featured (YouTubeチャンネル)

https://twitter.com/otoppetown (公式Twitter)

 身の周りの「音」をテーマとしたアニメ作品です。放送開始が2017年ですので、我々世代にはなじみがないかもしれません。

物語は、世界一のDJを目指す少女のシナスタジア(通称:シーナ)がオトッペタウンにやって来るところから始まります。そこは、音から生まれたという「オトッペ」たちが暮らす世界で、シーナは部屋を見つけて、オトッペたちと一緒に暮らし始めます。

 毎回、何らかの「音」をテーマとしたエピソードが繰り広げられるのですが、全体としてナンセンスギャグの作風が強く、子ども向けとしての性格が強い作品です(…が、なぜか「大きなおともだち」が少なからず観ている)。とにかく、設定がいちいちナンセンスで、全ての登場人物が、何かしらぶっ飛んだ発想を持っています。

 主人公のシーナの場合、世界一のDJになるという夢を持っているためか、音に対しての興味が人一倍強く、珍しい音を耳にすると、いてもたってもいられなくなるようです。新キャラのイシマルに対しては、DJプレイの素材(音)を提供させるために、ストーキング行為を繰り返しています。そのおかしさは、幼児の目にも十分滑稽に映ることでしょうが、とにかく音を全力で集めようとする姿勢が、子どもに向けてもわかりやすく提示されています。

 対して、風のオトッペであるウインディは、その愛らしい見た目に反して、畜生のごとき発言を繰り返します。お腹が減ったときには「ねえシーナ、女の子は常にチョコを隠し持ってるんでしょ?出してよ」と口走り、ウッドウッド(町長)が落語を披露する際には、ウッドウッドがひとりごとを言ってついにおかしくなったと本気で心配するなど、ひねった発言が目立ちます。

 そもそも、キャラクターの行動心理をいくら図式化したところで、子どもに伝えるのは難しいことなのですが、キャラクターの数々が愛らしい見た目をしていて、笑わせるような発言を繰り返すことによって、自然と作品世界に引き込まれていくのです。

 エンディングテーマは半年ごとに交代しますが、その全てに振り付けをともなうダンスが付いていて、音に題材を取った歌詞と凝った曲調であることから、身体を使って音を感じることができます。さらに、番組公式アプリの「オトッペずかん」は、身近な音を録音することによって、我々の身の回りにある音に気付くきっかけを与えており、その一部が番組の中で紹介されるのも良い仕掛けです。(ただし子どもはスマホを持っていない)

 このアニメには再放送が多く、同じエピソードを何度も目にすることになるのですが、それでも飽きることなく楽しませて頂いております。振り返ってみると、初期のシーナはセリフがとても多かったことに気付きます。(今は少し減りましたが、その分言動が常識外れになりました)最近、初期の名作エピソードである「ウインディの春いちばん」が再放送されて、懐かしく感じました。

 「ドップラー効果」など、音に関する豆知識に題材を取ったエピソードもありますが、それよりは身近な音について気付きを与える趣旨のものが良いと思っています。いずれにせよ、理論の説明は簡単に済まされていて、ギャグテイストの物語の中に説明が加えられているので、楽しみつつも学びになるという構成には矛盾しないと思います。

 花火のオトッペ・ハナビートや、お菓子のオトッペ・パティシーモフなど、面白いキャラクターが多数登場しますが、私がもっと活躍を見たいのが、ガラスのオトッペ、グラストンです。丸いフォルム、オネエ口調など、いかにもボケキャラを思わせる派手な見た目ですが、意外と受けに回ることが多く、シーナとハナビートが一日町長になった回では、2人が承認した条例により、彼の屋敷がロケットに改造され、屋敷ごと宇宙に飛ばされてしまいました。

 きわめてナンセンスな作品ですが、根強く愛されているようで、今年の秋には「映画化」されることが決まりました。(これは全く予想外でした…。できれば観に行きたいと思います)

 

 ここまで、「にほんごであそぼ」と「オトッペ」の魅力について説明してきました。これらの魅力をいくら説明したところで、大人になってしまった私たちには伝わらないかもしれません。しかし、有益な番組もあるということと、その良さについては、どうか知っていただきたいと思います。

 NHKの改造を訴える人は、NHKは民放と変わらず、さらにネットで補えると考えることでしょうが、それらとはなお一線を画していると私は考えます。この論争がどのような決着を見るかはわかりませんが、番組の良さやNHKという場の土壌を十分見極めることのないまま、「改革」が先行されることには懸念を覚えます。いずれにせよ、番組の質を落とさないことを念頭において頂きたいと思います。